可愛くないから、キミがいい【完】
迎えた当日、お泊りに必要なものを詰め込んだ大きめの可愛いバッグをもって、◇駅の改札の近くで和泉しゅうを待っていた。
ママには和泉しゅうのの家に泊まることを正直に話して、パパには友達の家に泊まると言った。
疑ってくるパパが少し面倒だったけれど、ママが上手いこといってくれて、最終的に外泊の許可がでた。
ママは、ときどき共犯者になってくれて、ありがたい。
別にわくわくして眠れないなんてことはなかったけれど、朝はかなりはやく目覚めてしまった。
昨日のうちから決めておいた洒落た襟がついた可愛い黒のワンピースに、髪は編み込んで後ろでひとつに束ねる。せっかくなので、クリスマスに和泉しゅうからもらった髪留めもつけてあげた。
時刻は、九時五十五分だ。
もう十五分は待っている。
◇駅は混みあっていないし、利用者の年齢層も高めなようで、声をかけてくる人たちもいない。思ったよりも早くついてしまって、完全に待ちぼうけ状態だ。
バッグは重いし、これからのことを考えると少しそわそわしてしまう。
痺れをきらして<遅いんですけど>というメッセージを和泉しゅうに送ろうとしたときに、改札とは反対の階段を下りてくる和泉しゅうの姿を発見した。
送りかけたものをそのままに、携帯をしまって、周りに誰もいないので隠すことなく唇をとがらて、「遅い」と文句を言う。
だけど、目の前まで来た和泉しゅうは、私の文句をスルーして、「おはよ」と笑った。
相変わらず目つきは悪いし、さっき起きたばかりみたいな顔をしている。
私は、早く起きたのに。
なんだかその差が嫌で、もう一度、「遅いんですけど!」と言ったら、今度はちょっとだけ嫌な顔をした。
「五分前だろ。お前が早いだけだわ」
「……ふつうは十分前には来るもん」
「急にルール作るのは独裁すぎる。この前、三十分遅れたの誰だよ」
「それは、みゆだけど。……もういい。おはよう」
「うん。はよ」
歩き出した和泉しゅうの隣を歩きながら、大げさにバッグが重いアピールをしたら何も言わずにもってくれた。それで、気持ちに折り合いをつける。