可愛くないから、キミがいい【完】
階段をのぼって、廊下をすすんで辿り着いた一番奥の部屋。中は、思ったよりもすっきりとしていた。ちゃんと片付いているし、そもそも物もあまりない。
本棚と勉強机とテレビと二人座れるくらいのソファ、その前には小さなローテーブルもある。家具は、落ち着いた色合いで統一されていた。
入ってすぐのところで見渡していた私を放置して、和泉しゅうはソファに座った。
「悪くないんじゃない?」
「勝手にジャッジすんな」
「別にそういうんじゃないし。片づけたって言ってたから」
「まあ、うん」
「みゆは、どこに座ったらいい?」
バカなことを聞いてしまったけど、もう口から出た言葉はなかったことにはできない。
他の男の子の家に行ったときとはまるで違うから、どうすればいいのか分からなくなるのは今も健在で、和泉しゅうといると気を抜いてばかりで、彼女としては言わなくてもいいことも平気で言えてしまう。
今の発言も、不慣れに思われてしまいそうで失敗したと思ったけれど、和泉しゅうは「どこでも、好きなとこ座れば」と何も考えていないような様子で答えて、そのくせに、自分の隣をぽんぽん、と叩いたから、なにそれ、と思いながらソファに近づいて和泉しゅうの隣に座った。
「つーか、何か飲む?」
「別に」
「喉乾いたし、茶もってくるけど、お前もいる?」
「じゃあ、やっぱりお茶飲む」
「ん、もってくるわ」
そう言って、立ち上がった和泉しゅうはすぐに部屋を出て行ってしまった。
招く方より、招かれる方がそわそわしているのって普通なのだろうか。和泉しゅうは、何ひとつ動じた様子ではない。