可愛くないから、キミがいい【完】
「みゆ、久しぶり」
高校の近くの信号機のところで待ち合わせをした。
落ち着いた茶色の短髪で清潔そうなたたずまいの男の人が、爽やかに手を振ってきたので振り返す。
元カレと付き合う前に会ったきりだったので、会うのは八か月ぶりくらいだ。
「元気にしてた?」
「うーん、ぼちぼち、です。唯人君に会えなかったし、ちょっと寂しかったかも、です」
今日連絡が来るまではすっかり忘れていたけれど、小さな嘘は積極的についていく。
大学生の唯人君。
流れるような動作で手を繋がれた。
「俺も、寂しかった。かわいい不足」
嘘くさいセリフも唯人君が言うと嘘だとは思わないし、くさいとも思わない。
そう思わせない魅力が彼にはあるのだと思う。
そのまま、私たちは最近できたお洒落なカフェに行くことにした。
写真を撮ってSNSに投稿するためにあるようなところだ。
美男美女、ってどこからか聞こえてきた声に恥ずかしそうにしながらも内心は満たされる。
それはたぶん唯人君も同じだと思う。
少し自慢げな顔をしているから。
「みゆ、何頼むかきめた?」
「うん。苺のショートケーキにしようかなあ」
「はは、みゆらしいね」
「……うん。みゆ、苺好きなの」
みゆらしい、って笑う唯人君で、思い出してしまったまだ新しい記憶を強引に振り捨てて、照れ笑いを浮かべておいた。
顔以外ゴミ男の何十倍も私のほうが苺も甘いものも似合うんだから。
本日のケーキは、苺のショートケーキとラムレーズンのタルトだった。
本当は、ラムレーズンのほうが好き。
だけど、天使っぽいのはショートケーキだ。