可愛くないから、キミがいい【完】
「みゆ、もうすぐ九時半だよ」
行為後、ベッドの中、唯人君に腕枕をしてもらいながら、くだらなことをゆっくりと二人で話していた。
彼は、飽きることなく髪をずっと撫でてくれた。
付き合っているみたいで、そうじゃない。
その先を控えめにずっと望んでいるのは、唯人君だけだ。
「ええ、帰ろうかなあ? 名残惜しいよ?」
「また、すぐ会いたい。全部、みゆ次第だけどね。お姫様のお気に召すままなので」
「えへへ、連絡するね?」
自分からはしないけれど、寂しくなったら返信する。
ベッドから抜け出して、制服を着る。
また、困ったように唯人君が笑ってる。
彼の見せてくれる表情のなかで、その顔が一番好きだ。
「駅まで送るよ」
「えっ、本当?ありがとうございます」
もう一度、キスをされる。
おそらく、今日、最後のキスだ。
私のことを可愛いってたくさん思ってる男の人のキスは、大切にしているうわべの心だけ、ちゃんと余すことなく撫でてくれているみたいで、たまらない。
手をつないで、駅に向かった。
「みゆは俺と付き合う気はまだないらしいね。残念」と独り言みたいに呟いて、唯人君は、やっぱり困ったように笑いながら見送ってくれた。
一人になる。
電車を待つプラットホームのベンチに座って、唯人君との今日のカフェでの写真をSNSに投稿する。すぐに、たくさんの反応が返ってきていた。
満たされる。満たされている。そのはずなのに。
―――『いちばん、可愛いよ』唯人君の言葉や、今までにたくさんもらった言葉を思い出す。
からだもこころも満たされている、はずなのに。