可愛くないから、キミがいい【完】
電車がくる。扉が開くのをぼんやりと座ったまま眺めていた。
人の波が出て入って、また扉が閉まる。
それで、また動き出した電車は、視界から流れるように消えていった。
一本見送りたい、そういう気分だった。
誰もいなくなったプラットホームで、表情をつくるのもやめる。
「可愛い」で充満した私の世界。
それだけで十分なのに、時々、本当に時々、誤作動みたいに、むなしくなってしまうときがある。
何をしているんだろうって、自分のことが分からなくなるときがある。
可愛いって言われたい。
好きだよ、ってそういう気持ちをたくさんもらいたい。
それだけが全てなのに、ぽろりと一部分が剥がれてしまう瞬間がある。
しばらくベンチに座ったままぼんやりとしていたら、携帯の通知音が鳴る。
ミーナからのメッセージだった。
〈来週末、東高の学祭あるんだって!一緒に行こうよ!〉
私が虚しくなっているのに、ミーナは腹が立つくらい能天気だ。それで、逆に少し元気がでてきた。
やっぱり持つべきものはお友達なのかもしれない。
すぐにやってきた電車に乗り込んで、窓に映る自分のことをさりげなく確認する。
やっぱり、可愛い。それだけで、いい。
虚しくなんてない。虚しくなんてないんだから。
少々強引にではあるものの、すぐにいつもの調子を取り戻して、ミーナには、〈考えとくね!〉とだけ返信しておいた。