可愛くないから、キミがいい【完】
校舎にはいると、にぎやかなBGMが流れていて、甘い匂いと塩っぽい匂いがいっぺんに鼻孔をくすぐってきた。
「あ!ミーナちゃん、やっと見つけた!」
しばらく歩いていると突然、かわいい男の子が手を振って近づいてきた。
記憶から少し抜けかかっていたけれど、その可愛い系のルックスには見覚えがあって、思い出す。
トシ君だ。
にこにこと、私たちのそばにきて、ミーナの頭にポンと手のひらをのせる。
照れたようにミーナが笑った。
確かに、付き合いそうな様子である。
私にとっては地獄みたいになったあのカラオケの日に、幸せを掴んじゃって、羨ましい限りだ。
「え、この前のメンバーじゃん!ちょうどよかった、俺らみんな準備係でさ、今日は暇なんだよ」
ほわほわ可愛いイメージの割には、やけに仕草は大人びている。これがミーナのハートを掴んだのだと分かった。
だけど、私は、それどころではなく。
―――今、ちょうどよかった、って言ったよね?
嫌な、予感がする。
浅はかな天秤にかけるべきではなかったのかもしれない。ちやほや、を選ぶべきでは、なかったのかもしれない。
早速、後悔している。最近、後悔ばかりしている気がするけれど、気のせいだろうか。
「あ、来た。おーい、こっち!」
その声の向かう方向には、顔を向けることができなかった。冷や汗をかいている。
天使の表情を浮かべたままでいるだけで精一杯。