可愛くないから、キミがいい【完】
「なあ、」
声をかけられたけれど、無視したら、おい、とまた手が伸びてきた。それから、さっきのように髪に触れたかと思ったら、ツインテールをきゅ、と柔く引っ張られる。
「やめてよね」
「これ、天パ? くるくるしてんの」
「違う。わざとだし。えっ、まさか、あんた、可愛いとか思っちゃってる?」
「おー、可愛い可愛い」
棒読みで言って、くるり、と和泉しゅうは自分の指先に髪を巻き付けた。
どくん、と心臓が小さく跳ねる。
今日は、誤作動ばっかりだ。
和泉しゅうの行為に意味なんてないし、あったとしてもからかってるだけだ。それなのに、なぜか頬が熱くなっていて、意味わからない。
「巻くのどれくらい時間かかんの?」
「みゆは、30分くらいだし」
「へー、すごいな。羊みたい」
「はあ? 馬鹿にしないでよ」
「なんでだよ。褒めてんだろ」
乙女心のおの字も分かってない。動物に例えられて、褒められているだなんて思えるわけがない。
毛先をくるくると指先に絡ませる不可解な戯れを続行される。さっさとやめてほしかった。
可愛く天使みたいな振る舞いでいれば、こんなことをされたときはちゃんと可愛い反応ができるのに、和泉しゅう相手だったらどうすればいいのかわからない。
だから、とりあえずむっとしている。
しばらくしたら飽きたのか、すんなりと手を離して、残りのクレープを食べ始めた和泉しゅう。
私も、無心になってぱくぱくと食べた。