魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
Ⅰ
ここは『魔法通り商店街』。
その名の通り、魔法使いのお店が軒を連ねる商店街だ。
飛び上がるほどに美味しくて本当に飛び上がれる魔法のレストラン。
一瞬で思い通りの髪型や髪色にしてくれる魔女のヘアサロン。
いつまでも枯れない花が買える魔法の花屋などなど、昼でも夜でも魔法でキラキラと輝くその通りに、ひっそりとその小さな時計屋はあった。
『リリカ・ウェルガー時計店』――通称「魔法通りの魔法を使わない時計屋さん」。
その通称通り、魔法使いなのに魔法は一切使わないという奇妙な時計屋だ。
店主の名はリリカ・ウェルガー。歳は20歳。トレードマークは長く艶やかな黒髪と目元のほくろ。
魔法学校では一位二位を争うほどの実力を持っていた彼女だが魔法使いなら誰もが憧れる就職先からのスカウトを全て断り、この魔法使いだけが出店を許される通りで時計屋を始めた。
なのに仕事に魔法は一切使わない。皆が彼女を「変わり者」と呼んでも仕方のないことだった。
「ほんと、リリカって変わってるよ」
「なによ、急に」
朝起きてからずっと片目にキズミを付け、古そうな時計を弄っている彼女のすぐ傍らで使い魔のハチワレ猫ピゲは溜息をついた。
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