魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
「やぁ、調子はどうだい?」
昨日のやたら顔の良い金髪碧眼の男が帽子を脱ぎながら入ってくる。昨日と同じ笑顔を貼り付かせて。
リリカはカウンター前までやって来た彼を睨み上げ、持っていた懐中時計を突き出した。
「これ、お返しします」
「直った?」
「直ってないです」
「え~、困るんだけどなぁ」
全然困ったふうではなく彼は言う。目の前に差し出されている時計を受け取ろうともしない。
「困るのはこちらです! これのおかげで私たち今日寝不足なんですよ」
リリカはしっかり寝ていたけどな、とピゲは思いながらカウンター端からふたりを見守っていた。
「寝不足? なぜ」
「なぜって、これが昨日勝手に動いたからです!」
すると、その男から初めて笑顔が消えた。どうやら驚いている様子だ。
「勝手に、動いた?」
「そうですよ。夜中にカタカタと、うちの猫が怖がってしまって可哀想なので、もう持ち帰ってもらえませんか?」
ピゲはそんな余計なことまで言わなくていいのにと思いながら男の方を見て、あれ? と思った。ふいに、その男をどこか別の場所で見たような気がしたのだ。