魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
◆◆◆
仕事と言っても丁度暇な時間を過ごしていたリリカは、仕方なく普段はしないような作業台の整理をし始めた。
男はというと、手帳のようなものを広げ先ほどからペンでなにか書きつけている。
そんな無言の時間がかれこれもう1時間は続いていてピゲはカウンターの端っこで丸まりながらもう何度目かの溜息をついた。――と、その耳がぴんと立ちドアの方を向いた。
「こんにちは、リリカちゃん」
カランコロンというベルの音と共に現れたお客さんにリリカの顔がぱぁっと輝く。
「ミルさん! いらっしゃいませ。時計直ってますよ」
一週間ほど前に腕時計の修理に来た上品なおばあちゃんだ。
リリカは引き出しから預かっていたその腕時計を取り出し、カウンター上に出した。それを見て、おばあちゃんの顔が嬉しそうにほころぶ。
「まぁほんと。良かったわ、まだ動いたのね」
「前回お掃除したのが5年前だったので、また5年はちゃんと動くと思いますよ」
「そう、嬉しいわ。おじいさんが大切にしていたものだから腕に無いとどうも寂しくってねぇ。流石は、ウェルガーさんのお孫さんね」
その言葉にリリカは頬を赤らめはにかんだ笑みを浮かべた。彼女にとってそれは一番の賛辞だ。