魔法通りの魔法を使わない時計屋さん

「本当にありがとう。じゃあね、ピゲちゃん」

 腕時計を早速着けたおばあちゃんはお代を置いてピゲを優しく撫でてから店を出て行った。
 と、そんな彼女たちのやりとりをじっと見ていた男が口を開いた。

「5年前に、もう君はこの時計屋をやっていたのかい?」
「え?」
「今、5年前って言っていただろう」
「あぁ、5年前に修理をしたのは私じゃないですよ。私がこのお店を開いたのは2年前ですから」
「じゃあなんで5年前ってわかったんだい」
「時計の裏蓋の内側に大抵書いてあるんですよ、修理した日付と職人のサインが」
「へぇ。それは知らなかったな」

 感心したように男は何度も頷いた。

「それよりもうお昼ですけど、まだ居座る気ですか?」
「君が時計を直してくれたら、すぐにでもお暇するんだけどな」

 男は悪びれもなくにっこりと笑う。リリカの頬がまたピクピクと引きつった。
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