魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
「そんな修理、魔法を使えばもっと簡単なのにさ。もうお昼だよ」
「煩いわね。今丁度終わるとこ。――よし、これでどうかしら」
彼女がキズミを外しながら顔を上げると、時計の中の小さな歯車がカチコチと規則正しく動き始めた。
ピゲもそれを上から覗いて確認する。
「ほらね。魔法なんて使わなくても私のじぃじ譲りの手があればどんな時計も直るのよ!」
「ハイハイ。――あ、リリカお客さんみたいだよ」
耳をドアの方へ向けてピゲが言った直後、カランコロンというベルの音とともにそのお客は現れた。
「いらっしゃいませ」
「ふぅん、君が噂のリリカちゃんか」
――あ、マズイ。ピゲは思わず耳を伏せた。
帽子を脱ぎながら入ってきたのは20代半ばほどのやたらと美しい金髪碧眼の男で、身なりも良かったが何か含みのありそうな笑顔の貼り付いたリリカの一番嫌いそうなタイプのお客だった。
たまにいるのだ。『魔法通りの魔法を使わない変わり者の時計屋』を見に来る興味本位の客が。
「そうですが、冷やかしならお引き取りください」
あちゃ~、やっぱりとピゲは思った。見るからにリリカの顔が不機嫌だ。
でもそのお客はそんなリリカの態度にも気を悪くする様子なく、クスクスと笑った。
「冷やかしじゃないよ。ちゃんとしたお客さ。是非、君に時計修理を頼みたくてね」