魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
「まぁ、三下でしたけど。……何か、人に恨まれるようなことでもしたんですか?」
リリカが半眼で言うと彼は心当たりがあるのかバツが悪そうな顔をして、それから苦笑した。
「どうも、僕は人から恨みを買いやすいみたいでね。いや、助かったよ。流石は優秀な魔女さんだ」
「このくらいの退魔法、魔法学校の一年生で習いますよ。まぁ、杖も魔法陣もなしでの退魔法は大分熟練度が高くなりますけど」
まんざらでもなさそうな顔でリリカが言うと、彼は笑顔で続けた。
「その調子で、時計も直してくれたら嬉しいんだけどなぁ」
「それはお断りします」
「あらら」
「で、今日も居座る気ですか?」
リリカが溜息交じりで訊くと、彼は口元に手を当て少しの間考えるような仕草をした。
「そのつもりだったんだけど……、今日はこれでお暇しようかな」
「え?」
「朝からお騒がせして悪かったね。また来るから、それまで時計は預かっておいて」
そうして帽子を被り背を向けてしまった彼に、リリカは声を掛けた。