魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
それを男は柄悪く睨みつける。
「はぁ? あんたには関係ないだろう。口出しすんじゃねぇよ」
「彼女は、一流の時計職人だ」
その言葉にリリカは瞳を大きくした。
「その彼女が直せないと言っているんだ。もう諦めたまえ」
「随分と偉そうな口をきいてくれるじゃないか。俺はな、この街の議員の息子だぞ。父に言えばこんな店すぐにでも追い出すことだって出来るんだからな!」
さっとリリカの顔色が変わる。ピゲは自分でも気づかぬうちにフーっとその客に向け威嚇の体勢をとっていた。
しかし彼は笑顔を崩さずにスっと立ち上がるとその客に近づいた。
「な、なんだよ」
「すまないね、僕はこの街のことにそこまで詳しくなくて。その議員の名前を教えてくれないかい?」
そして彼はリリカの死角でその客に小さく耳打ちをした。
それを聞いた男の顔がみるみる青ざめていく。そして彼から物凄い勢いで離れ、慌てたように声を上げた。
「な、なんでこんな店に、」
その反応にリリカは眉をしかめる。彼は男に向かってにっこりと続けた。
「僕も彼女に時計の修理を頼みに来たんだよ。君と一緒さ」
男はリリカと彼とを見比べながら、ドアの方へと後退っていく。
リリカはそれを見て我に返ったように声を掛けた。
「あ、時計、お返しします」
「そ、そんな壊れた時計もういらねぇよ! 捨ててしまってくれ!」
そう言い残し、その客はけたたましいベルの音と共に去って行った。