魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
ふぅとピゲは肩の力を抜いた。
「まったく、騒がしいお客だったね」
彼は笑顔でこちらを振り向いた。リリカはそんな彼に頭を下げる。
「ありがとうございました。助かりました」
ピゲも一緒に少しだけ頭を下げた。
「いや。でも、僕も最初君のことを良く知らずに今の彼と同じことを言ってしまった。すまなかった」
帽子を外し頭を下げた彼を見て、リリカはひどく慌てた。
「そんな、全然違います! あなたとあの人とでは、全然」
すると彼は穏やかに微笑んだ。
「ありがとう。……それじゃあ、僕ももう帰るとしよう。色々と迷惑をかけたね」
そうして彼はこちらに背を向けた。
……本当にこれでいいのだろうか。そう思ってピゲはリリカを見上げた。そのときだ。
「――あの!」
ドアを開けようとしていた彼を、リリカは呼び止めた。
「ん?」
「その時計、私に修理させてください!」
「え?」
「へ?」
彼とピゲの声が被った。
思わず出てしまったのか、リリカ自身も驚いている様子だ。その顔がほんのり赤くなっているのを見てピゲはぽかんと口を開けた。
「でも君、魔法は」
「――よ、よく考えたら、開けるだけなら修理とは言わないんで、開けるだけ魔法で試してみようかなと」
なんだそりゃ、とピゲは呆れた顔をした。
でも彼はもう一度帽子を外しクスクスと笑いながら嬉しそうにこちらに戻ってくる。
「頼むよ。リリカ・ウェルガーさん」
「大切にお預かりします」
リリカも職人の顔で、それを受け取った。