魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
リリカは出来る限り足音を立てないよう店への階段を降りていく。この時ピゲは自分の手に肉球が付いていて良かったと思った。
その間もカタコトという音はずっと聞こえていて……。
階段を降りきったふたりはごくりと喉を鳴らし、カウンターを覗いた。――途端、その音はぴたりと止んだ。
シンと静まり返る暗い店内をふたりは見まわし、そして目を合わせた。
「誰も、いないね」
「……」
リリカは小さく息をついてからスタスタとカウンターへと向かい、そこでその目をいっぱいに見開いた。
「これ、あんた?」
「え、何が?」
ピゲはぴょんとカウンターに飛び乗る。そしてリリカが見つめているものに気づいた瞬間、ぼわっとその長い尻尾がタヌキのように膨らんだ。
「な、ななななんで、これがここにあるの? リリカ引き出しに仕舞ってたよね?」
「……あんたじゃないなら、この時計が勝手にここに出てきたってことになるわね」
カウンター上の金の懐中時計は今はうんともすんとも言わず、ただ静かにそこにあった。