魔法通りの魔法を使わない時計屋さん


「呪いだよ! 黒魔法が掛かってるんだよ絶対!」

 翌朝、カウンターの一番端っこからピゲはもう何度目か同じ台詞を叫んだ。
 ――あの後、また起こされたらたまらないと時計をカウンター上に置いたままリリカは二階の寝室に戻りさっさと寝てしまった。でもピゲは怖くてなかなか寝付けず、久しぶりにリリカの隣に潜り込んで明け方近くになんとか眠ることが出来た。お蔭で寝不足だ。

「そんな悪い感じはしないけど」
「もう触らない方がいいってリリカ!」

 リリカはカウンターに頬杖をつき、もう片方の手に持った金の懐中時計を眺めている。
 昨日全ての修理を終わらせてしまったので今のところやるべき仕事はない。要するに暇だ。
 いつも通りピゲの忠告など聞かずにリリカは竜頭を押して文字盤を開いた。

「2時28分」
「え?」
「2時28分で止まってる」
「あぁ」
「そういえば昨夜のアレ、丁度このくらいの時間じゃなかった?」

 ぞわっとピゲの全身の毛が逆立った。

「ねぇ! やっぱり何か呪いが掛かってるんだって。もう触るのやめなよ!」
「……誰が、あなたに魔法を掛けたの?」

 リリカが懐中時計に向かって囁きかけたそのとき、ピゲの耳がぴんっと立った。

「リリカ、お客さん……あっ!」
「あっ!」

 ふたりはカランコロンという音と共に現れたそのお客を見て同時に声を上げた。
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