私と貴女の壊れた時計
「じゃあ、苦手な教科って何?」
「一番低いのは、日本史だけど……」


素直に応えると、真宙は目を輝かせた。


「僕、日本史得意だよ。数学教えてくれるお礼に、教えようか?」
「……大丈夫、一人でできる」


可愛くない言い方をしてしまった。


真宙を見ると、気まずそうに眉尻を下げた。


何か謝罪のような言葉を出そうとしたが、教室に着くほうが早かった。


「同じ作りなはずなのに、別のクラスの教室ってだけで特別な感じがするね」


ころころと表情を変え、楽しそうにするところは、犬のようだった。


「それで、どこがわからないの?」


そして私は真宙の楽しいという気持ちを、簡単に壊した。

便乗しなかった。


一緒になって笑う余裕が、私にはなかった。


私の冷たい態度に、真宙は苦笑する。


「微分ってなに?って感じでして」
「……わかった」


本当はわかっていなかった。

だけど、わからない人はなにがわからないのかがわからないと聞く。

真宙は全てを理解できていないのだろうと思った。


私が答えると、真宙は一番前の真ん中の席に座った。


「……なにしてるの」


向き合って教えると思っていたから、真宙の行動がよくわからなかった。

でも、真宙は私の質問の意味がわかっていないようだった。


「だって、神山先生でしょ?」


それはつまり、黒板を使って教えろ、ということだった。


私はチョークを手に取り、本当の教師のように授業を始める。


真宙は、終始首を捻っていた。
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