私と貴女の壊れた時計
いや、さすがに基礎問題はできるようになった。

少しレベルが上がると、途端にできなくなるのだ。


「あとちょっとなのに……」


真宙の解答用紙を睨みつける。


「神山さん、もういいよ。本当にありがとう。簡単な問題が解けるようになっただけマシだ。もう自分の勉強に集中して?」
「でも……」


ここまで来たら、最後までやりきりたい。


だけど、本人がいいと言っているのに、まだやる、とは言えなかった。


「神山さんは、僕が理解できなかったら、自分の説明が悪いんだって、僕のことを諦めないでくれていた。でも、これ以上は神山さんの邪魔になる。だから、ね」


ね、じゃない。


初めは面倒だ、そんな時間はないと思っていたけど、真宙のためにいろんな参考書を読み込んで、どう教えればいいのかを考えるのは、楽しかった。


それを、邪魔になると言われ、少し苛立ちを覚えた。


「僕、もう行くね」


私が思ったことを言わないでいたら、真宙は自分の参考書を片付け、立ち上がった。


ドア付近まで歩いていく真宙の背中を、見つめることしかできない。

どう引き止めるべきか、迷った。


「……そうだ」


待って、という私の念が通じたのか、真宙は足を止める。


「一生懸命な神山さん、かっこよくて素敵だったよ。受験、頑張ってね」


それを聞いた瞬間、私の体は動いた。

真宙の腕を掴む。


「……このまま、志田君と話せなくなるのは、嫌だ」


なぜかわからないけど、このときの私は、妙に素直だった。


私は、真宙のことを考える時間が終わってしまうのが、嫌だったのだ。


すると、真宙は困ったように笑った。


「実は、僕も」
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