私と貴女の壊れた時計
「それで、話って?」


いつもの柔らかい笑顔や声ではない。


なぜ真宙のほうが不機嫌なのだろう。

腹が立っているのは、私だ。


「昨日のこと。遊びに行きたいなら、そう言ってくれればよかったのに。わざわざ隠れるようなこと、しなくても」


真宙は文句を言う私に対して、鼻で笑った。


「ねえ、早紀ちゃん。それは……どの立場で言ってるの?」


どの立場と言われると難しいが、私たちの関係には名前がある。


「もちろん、彼女だけど」
「……彼女ね」


間違っていないはずなのに、正しい答えを言った気がしない。


「……僕たち、少し距離を置こう」


真宙がなにを言っているのか、わからなかった。


「それって、別れるってこと?」


つい、口調が厳しくなる。


「そうじゃなくて……」


真宙ははっきりと言わない。

その態度に、余計に苛立つ。


「なんでそんなことを言うの?私のことが嫌いになったなら、そう言えばいいでしょ」


真宙の言葉を受け入れないということは、私は別れたくないのだろう。


責めるような言い方をしたからか、真宙は顔を上げない。


「……嫌いになったわけじゃない。怖くなったんだ」


真宙の表情が見えないが、私を怖いと言っているのは、本気だろう。


なにがどうなれば私を怖がるのか。

考えてみるが、答えが見つからない。


「確かに僕たちは恋人同士だ。でも、やっていることは僕が早紀ちゃんの家に行って、ご飯を作っているだけ。それだけなんだ」


私たちなりの交際の仕方があると思って、そのことに疑問を抱いたことはなかった。


だけど、真宙はそれが気に入らなかったのか。
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