私と貴女の壊れた時計
「……嫌なら、やらなきゃよかったでしょ。私、頼んでない」


真宙は顔を上げる。

今にも泣きそうだ。


「うん、その通りだよ。頑張る早紀ちゃんを支えたくて、僕が勝手にやっていたことだ。だから、それは別にいいんだ」
「じゃあ、なにが気に入らないの」


真宙の話し方に、苛立ちを隠せなくなった。


真宙は私から視線を逸らす。


「僕も、役目が終わったら……いらなくなったら、壊れた腕時計みたいに捨てられるのかなって思ったら、怖くなったんだ」


私は、腕時計が壊れた日の夜のことを思い出した。


あの日、真宙は用事を思い出したからと、夕飯前に帰った。

私が腕時計を修理せずに買い直すと言っただけで、そんなことを思っていたのか。


そんなつもりはなかったのに。


「……わかった。真宙の言う通り、距離を置けばいいのね」


私は出されたお茶に手をつけず、立ち上がる。

そして一度も振り返らずに、真宙の部屋を出た。


自分の部屋に戻っても、苛立ちが収まらない。


思ったことがあったら、すぐ言えばよかったのに。

今さら遠慮し合う関係でもないのに。


というか、そんな小さなことを気にするような奴だとは思わなかった。


一つのことに怒り出すと、今まで気にならなかったことが気になってくる。


いちいち甘えてくるところとか。

空気を読まずに笑っているところとか。


真宙の長所であるものが、急に短所になる。


「あー、もう!」


一人の部屋で、無意味に叫ぶ。


そんなことをしたところで、なにかが変わるわけではない。


でも、少しでも気持ちをリセットさせたくて、深呼吸をする。


これで真宙のことを考えるのはやめる。


「……大学行こう」


用意していた鞄を手に、家を出た。
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