私と貴女の壊れた時計
大学に着くと、私はなにかに取り憑かれたように手を動かした。


「うわ、朝から勉強してる」


結芽は講義が始まる三分前に来た。


嫌そうな顔をする。


「……別に悪いことはしてない」


真宙への苛立ちを引きずっていたらしい。

私の声は冷たかった。


結芽は目を丸める。


「どうした。今日は不機嫌?」
「……ごめん、ただの八つ当たり」
「この授業が終わったら、私が話を聞いてあげよう」


なぜ上から目線なのか。

そう言いたかったが、講義が始まる時間になった。


私は文句を飲み込んで、教授の話に集中した。

その間は、余計なことは考えずに済んだ。


講義が終わると、いつもは自習をする。

でも、今日は結芽に引っ張られて学生の休憩スペースに連れてこられた。


「さてと。話してみな?」


嫌だ、と言ってもよかった。

わざわざ結芽に話すようなことではない。


そう思っていたはずなのに、誰かに話すことで楽になれたりしないだろうかという考えが頭に過り、私は真宙とのことを話した。


高校卒業から約一年半付き合っていること。

隣の部屋に住んで、半同棲のようなことをしていること。

ずっと、真宙に夕飯を作ってもらっていること。


そして、真宙と喧嘩をしてしまったこと。


全てを聞いた結芽は、呆れた表情を見せた。


「早紀が悪い」
「……どうして?」


私は悪いことなんてしていない。

そう言われるのは、納得がいかない。


「恋人なのに家政夫みたいなことしかしてないってなると、不安になるって。デートとかしてないの?」
「……勉強で忙しくて、そんな余裕なかった」


結芽はため息をつく。
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