先生がいてくれるなら②【完】
立花の頬に、そっと触れる。
桜色に染まる柔らかくなめらかな彼女の頬を、両手で優しく包み込んで、ゆっくりと顔を上げさせる。
ためらいがちに、揺れる瞳を俺へと向けた。
そんな、ひとつひとつ、いや全てが、俺の心を激しく揺さぶるんだ──。
「……立花は、俺なんかのどこが良いの?」
お前だって知ってるだろ? 俺は、“暴君” だ、って。
お前から見たら俺なんかオジサンだし。
「あの、私、先生の全部が、好きなんです」
全部……?
ますます分かんねーよ。
「すごく優しい所も、時々ちょっと意地悪な所も、綺麗で格好いい所も、学校での目立たない姿の時も、数学を教えてる時も、数研でみんなと雑談してる時も……全部」
──立花、お前、さぁ……。
俺が教師として決意していたことを全て諦めて、完全に手放した瞬間だった──。