先生がいてくれるなら②【完】
気を落ち着かせようとしたのかコーヒーカップに手を伸ばす立花の手を、両手の中にしっかりと閉じ込めた。
「先生……ここ、学校ですっ」
「だったら、なに」
こんな朝っぱらから俺に用事のある人間なんかお前以外にいるわけないから、誰も来ない。
もし来たとしても、準備室の扉をノックするはずだ。
手を握ってる所を見られるなんて心配は絶対に無い。
それより……俺が立花をこの部屋に連れ込んでコーヒー飲ませてる方が実は問題な気がするけど、気付いてないようだから黙っておこう。
焦った顔が可愛くて、手を握りしめたまま思わず笑みがこぼれてしまう。
あたふたする立花の視線が、ふと壁に掛かっている時計へと向くと──もうすぐ予鈴の鳴る時間だった。
お前は時間を操る魔術師か?
仕方ない、今日の所はこれで勘弁しておいてやろう。
俺は立花の手を離した。
慌てて残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がろうとする立花の頭を、ふわりと撫でる。
「日曜日、行きたい所考えといて」
そう言うと、立花はまた真っ赤になって小さな声で「はい」と返事をした。
可愛すぎてほんと困る……。