先生がいてくれるなら②【完】
高校生の頃はまだ数学者になることを目標にしていたから、数学のことを考えている時間が俺にとっての重要かつ至福の時間で、好きなのかそうじゃないのか分からない相手にそんなに多くの時間を割くのは勿体ない、そんな気持ちが強かった。
大学生の頃は数学者になるのを渋々ながら諦めた時期で、それでも数学への思いを完全には諦めきれないでいたから、やっぱり寝ても覚めても数学の優先順位が最も上で……。
今思えば、随分酷い男だったと思う。
好きなら “一緒にいたい” と思うのは当たり前だ。
いま、俺はそれを痛感している。
誰かにこんなに強く惹かれて、誰かをこんなに好きになって、誰かをこんなに愛おしいと思うなんて──今まで一度も無くて。
好きすぎて、可愛くて、触れたくて、自分だけのものにしたくて、閉じ込めてしまいたくて──。
自分の気持ちすら持て余してしまうような、そんな強く激しい感情が自分の中にあるなんて、俺は今まで知らなかった。