先生がいてくれるなら②【完】
あの時と同じように、俺と立花は手を繋ぐ。
だが、あの時とは違う。
あの時は、俺の気持ちはまだ自分の中に閉じ込めたままにしようと抗っていた。
あの時、本当は俺自身を知って欲しくてここへ連れてきた。
あの時は幸せの中に、とても高い濃度で不安が混じっていて。
だが、いまは──。
隣を歩く立花がこちらを見上げたことに気付き、お互い微笑んで視線を絡ませる。
立花が、繋いだ手に少し力を込めた。
うん、幸せだ。
そうやって立花から愛情表現をしてくれるのが、嬉しくて堪らない。
じゃあ、俺も、お返ししてあげよう。
俺は、ギュッと繋がれていた手をわざと少し緩めて、立花の柔らかい手の平を親指でスルリと撫でた。
「!!」
すると、前に来た時と同じで、立花は真っ赤になって睨んでくる。
だーかーらー。
その顔、逆効果なんだって。
余計に意地悪したくなる。
立花がくすぐったがってる事に気付かないふりをしてとぼけると、立花は「もうっ、先生のバカ!」と言って手を振りほどいて逃げ出した。