先生がいてくれるなら②【完】
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準備室に突然押し入ってきた男に、俺はいま思いっきり睨まれている……。
「……話が無いなら、出て行ってもらえるかな」
俺がそう告げると、その男──倉林悠斗は、近くの椅子をガシャンと音を立てながら引き寄せ、ドカッと座り込んだ。
……出て行く気は無いらしい。
俺がため息を吐くと、倉林はますます俺を睨みつけ、ようやく口を開く。
「……お前、教師だろ? 良いと思ってんの?」
まぁ、十中八九、その話題だとは思ったよ。
倉林への返事をちゃんとしたって話は、立花から報告を受けていたから。
さて、どう答えるかな……。
どんな返事をした所で倉林が納得するとは思えないし、俺も引き下がるつもりは無い。
なかなか答えない俺に痺れを切らしたのか、「何とか言えよ!」と鼻息を荒くしている。
……若いねぇ。
まぁ、それだけ立花に本気だって事か。
「悪いけど、手放す気は無いから」
俺はそれだけ答えると、クルリと椅子を回転させて仕事に戻る。
そんな俺の態度が倉林を更に激高させた。
「てめ、ふざけんな……教師のくせに! こんな事が知れたら、お前クビじゃねぇの!?」
倉林の言葉に、俺は無表情で小首を傾げて見せた。
「もちろんその通り。だけど……お前はこの事を誰かに言ったりはしないだろう?」
「……さぁ、どうだかな」
「言わないよ。言ったら一番悲しむのは、誰か分かってるはずだから」
そう、俺たちのことが明るみに出れば、一番心を痛めるのは立花だろう。
それを倉林が考えないわけが無い。