先生がいてくれるなら②【完】
「お仕事、忙しいの?」
「まぁ、それなりに」
「食事と睡眠は? ちゃんととれてるの?」
「……まぁ、一応」
母親って言うのは、子供がいくつになっても心配ばかりするのが仕事らしい。
俺がどれだけ「大丈夫だ」と言っても、滅多に顔を出さない俺の心配ばかりしてる。
大丈夫、死なない程度にちゃんとやってるよ。
最近は立花が週末毎に家に来てくれるから、ちゃんと飯も食ってるし。
「ねぇ孝哉。今日連れてきたお嬢さんなんだけどね。可愛らしい人ね?」
「……うん、まぁ……」
「それで、結婚は、いつするの?」
──は!?
いきなり話が飛びすぎだろう!
「……母さん、あいつ、まだ学生だから」
まさかアイツが高校生だとは、思ってないだろうなぁ。
「あら、そうなの……。でも、早めにしなさいね? 素敵なお嬢さんだから、誰かにとられてしまうわよ?」
それは俺も危惧している所だ。
とりあえずライバルが校内だけでもウヨウヨいる事を考えると、俺だって内心気が気じゃ無い。
「まだ早いよ。アイツが社会人にならないと……」
俺の言葉に、母は残念そうに「そうなの……」と小さくため息を吐いた。
俺だって残念だよ、そもそもあいつが社会人になるのなんて何年も先なんだから……。
そんな俺と母のやり取りをニコニコしながら見ている広夢……。
こいつ、きっと立花が俺の教え子だって気付いてるな。
余計なことを言わないように後で釘を刺しておかないと。
はぁ、厄介事がどんどん増えてる気がするのは気のせいか……?
でもまぁ、とりあえず親父との約束は果たした。
これでしばらく放っておいてくれると助かるんだが──。