先生がいてくれるなら②【完】
車から降りると俺は、右手にだけ手袋をはめて左の手袋はコートの右ポケットにしっかりと仕舞う。
そして、手袋をしていない左手を立花の方へ差し出した。
手を、繋ごう、立花──。
ごめんな、俺の手、まだちょっと冷たいけど。
立花が俺の左手に、彼女の右手をそっと重ねる。
一本ずつ絡み合うように繋ぎ直し、そのまま俺の左のポケットに入れた。
「先生の手って、不思議」
立花がそう呟く。
「え?」
「だって、夏でも冷たい時あるじゃないですか。特に出会った頃なんて、冷たすぎてびっくりしたのを覚えてます」
おいおい、なんて事を言い出すんだ。
「あぁ、あれは、まぁ、……」
答えに困って、思わず語尾がどんどん小さくなる。
うーん。
俺は思わず立花の手を少しだけキュッと力を入れて握った。
「……まぁ、もう言ってもいいか」
既に時効だろ。今は一緒にいるわけだし。
「最初の頃なぁ、……まぁ今もだけど、お前を助手席に乗せるの、緊張するんだよ……」
そう言うだけ言って、思わずちょっと気まずい気分になる。
だってこれを言ってしまったら最初っから立花のことを意識してたって事がバレるからな。