先生がいてくれるなら②【完】


あの人の言ってる事は、全部正しい。



先生と、生徒。


藤野先生は “教職に就く大人” の立場で、私は “生徒で未成年”。



世間から見れば、明らかに悪者は、“先生”。



もし私たちの関係が世間にばれたら私だって白い目で見られるとは思うけど、未成年だからと言う理由で、名前が表に出たりすることは無い。



咎められて大きな処分を受けるのは、先生。


そうなると、きっともう教職ではいられないだろう。


新聞やテレビのニュースで、名前や経歴、どんな悪いことをやった……なんて、本当じゃ無いことまで面白おかしく書きたてられる可能性だってある。


そんな事になったら、今後まともな職業には就く事は出来ない可能性だってある。




私は先生の事が好き。大好き。


大好きな先生を、私がそんな恐ろしい事に巻き込んでしまったんだ。


先生はきっと自分を責めるだろう。


悪いのは大人である自分だから、って……。



無理だよ、先生。

先生を、“先生” じゃなくしてしまうのは、私には、無理です。



だって私は、先生が “数学を教えることが好き” だって、知ってる。


無表情を装っているけど、生徒が質問に来た時や、教えた所が解けるようになった生徒を前にした時に、一瞬とても嬉しそうな表情をするのを、私は知っている。


先生が、どれだけ数学を──生徒を大事に思っているか、私はもう知ってしまっているから……。





────私は、あふれる涙を止められなかった。



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