先生がいてくれるなら②【完】
それからの日々は、まるで色を失ったかのような毎日だった。
朝起きてお弁当を作り、美夜ちゃんと登校して、部室を掃除し、授業を受けて、下校、課題や予習復習をして、寝る。
ただただ、それだけの日々──。
しばらくの間、部活には顔を出せないままだった。
このままだと部員全員に迷惑を掛けてしまう事になるので、一番よく話をしていた市橋君に事情を説明した。
「……そっか、別れちゃったんだ……。どうりで先生の様子がおかしいと思った」
「え……そう、なの? 私には普通通りに見えたけど……」
「まぁ表面上は普通だったけどねぇ」
私は、先生にも数研のみんなにも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「部員のみんなにも色々迷惑かけちゃうね、ごめん……」
「僕たちは大丈夫。それより、立花さんの方が大丈夫じゃなさそうだよ」
「ん、私は大丈夫。あぁ、でも大丈夫じゃないのは、勉強の方かも……」
数研のみんなにはいつも勉強を教えてもらっていたので、それが途切れると実は色々困るのだ。
特に化学は、私が元々受けている授業が『化学基礎』だけなので、3年生から理系に転向すると授業について行けない可能性が出て来る。
それをよく分かってくれていて、「特に化学だよね」と市橋君が少し眉根を寄せた。
「部活には、もう来られない感じかな?」
「……ううん、大丈夫、行く。ただ、先生が来る日は、ちょっと……」
「あぁ、うん、そうだよね。分かった、ちょっとだけ時間ちょうだい。部長の川原とも話してみる」
二年生部員全員のおかげで、部活がある日は今まで通り部室で勉強を教えてもらう事になった。
先生は──多分私が部室にいる事は分かってるけど──いや、いる事が分かっているから、顔を出さない。
こんなに近くにいながら、私たちの距離はとても遠くなってしまった──。