先生がいてくれるなら②【完】
始業式が終わり全校生徒が教室へと移動する中、私はあくびをしながら誰かと会話することも無くぼんやりと教室へと歩いていた。
理数クラスには顔見知りはいるものの、仲の良い友達はひとりもいなくて。
勉強も心配だけど人間関係も今から作り直しかぁ。
理転するって決めた時から分かっていた事だけど、既に完全にグループが出来上がってる中に入っていくことが出来るかどうか、なんて考えるとさすがに少し不安になる。
それでなくても女子は面倒なことが多いのに。
……入るグループが無ければ、まぁそれはそれで仕方ない、かな。
人波に乗ってぼんやり廊下を歩いていると、誰かがトントンと肩を叩いた。
その子は、とても華麗な雰囲気の女子で……。
“華麗” とか “美人” とか “優雅” なんて言葉が似合う、私とは住む世界が違いそうな雰囲気を持った人。
あー、確か……
「理転して来た立花さんって、あなただよね?」
「う、うん……」
「私、同じクラスの西之園 椿(にしのその つばき)。よろしくね」
西之園さん。
とても珍しい苗字だし、この見た目だから文系だった私でも知ってる。
「立花 明莉です。こちらこそよろしくね、西之園さん」
私は急な展開にどぎまぎしながらぎこちなく笑うと、西之園さんは「苗字はやめて~」と言って苦笑した。
「ほら、にしのその、って長いじゃない? 言いにくいし呼びにくいから、下の名前で呼んで欲しいの」
「あぁ、うん。じゃあ、……椿さん」と私が言うと「待って待って、『つばき』で良いから! さん付けだとお婆ちゃんみたいだから!」と言って顔をしかめた。
「じゃあ、……椿」
「うん。立花さんのことも、下の名前で呼んで良い?」
「もちろん。私のことも『明莉』って呼び捨てて」
「分かった、明莉、ね。改めて、よろしく」
ニッコリと笑う椿はとても美しくて、思わずちょっとドキッとした。
──こうして、私の高校生最後の一年間がスタートした。