先生がいてくれるなら②【完】

そして、さっき指さしたアパートの前で「ちょっとここで待ってて。一瞬だけ。タオル持って来るだけだから。ちゃんと待っててよ?」と言って、私に傘を握らせて、走ってアパートの外階段を駆け上がる。


ガチャガチャ、バタン、と言う音が頭上から聞こえる。


私は……開かれたままの傘をその場に置いて、自分の家へとフラフラと歩き出した。



そんな風に見ず知らずの人に親切にしてもらうわけにはいかない。


むしろ私は罰を受けた方が良いんだ。


それで私がした事が無かったことなんかには、絶対にならないけど。



ちょっと離れた所で、またバタン、と音が聞こえて、バタバタと走る音が続く。



「えっ!? ちょっと!!」



声が聞こえるけど、私の耳には届かない。


聞こえているけど、聞く気はない。


バシャバシャと水たまりを蹴る音が、私のすぐ後ろから聞こえる。



──追いかけないで。そっとしておいて。


< 300 / 354 >

この作品をシェア

pagetop