先生がいてくれるなら②【完】
そして、さっき指さしたアパートの前で「ちょっとここで待ってて。一瞬だけ。タオル持って来るだけだから。ちゃんと待っててよ?」と言って、私に傘を握らせて、走ってアパートの外階段を駆け上がる。
ガチャガチャ、バタン、と言う音が頭上から聞こえる。
私は……開かれたままの傘をその場に置いて、自分の家へとフラフラと歩き出した。
そんな風に見ず知らずの人に親切にしてもらうわけにはいかない。
むしろ私は罰を受けた方が良いんだ。
それで私がした事が無かったことなんかには、絶対にならないけど。
ちょっと離れた所で、またバタン、と音が聞こえて、バタバタと走る音が続く。
「えっ!? ちょっと!!」
声が聞こえるけど、私の耳には届かない。
聞こえているけど、聞く気はない。
バシャバシャと水たまりを蹴る音が、私のすぐ後ろから聞こえる。
──追いかけないで。そっとしておいて。