先生がいてくれるなら②【完】
だけどそんな私の願いも虚しく、十数メートルほど歩いた所で私は再びその人に腕を掴んで引き止められた。
「待っててって言ったのに!」
再び傘を差し掛けられて、私の頭にふわりと大きなバスタオルが乗せられる。
柔軟剤の、甘くて優しい香りが私を包んだ。
私が逃げ出さないように、その人は私の前に回り込んで私の頭をバスタオルで拭く。
「風邪、ひいちゃうから」
器用に傘を片手に持ったまま、私の頭を丁寧に拭いてくれる。
私は逃げる気力も無く、ただされるがままに突っ立っているだけ……。
「今から家に帰るの?」
頭上から降ってくる質問に、私はコクリと小さく頷いた。
どうして返事をしようと思ったかは自分でもよく分からないけど、もしかすると反射的に頷いただけかも知れなかった。
「そっか。……家まで送ってあげたいんだけどさ、知らない男に家の場所知られるの、イヤだろ? だから、近くまでしか行かないから……」
この人は、なんていい人なんだろう。
私の家の近くまで送って、その後私に傘を持たせてしまったら……今度はこの人が濡れて帰れなきゃいけなくなる。