先生がいてくれるなら②【完】
私はちょっとさっきまでの態度を反省した。
この人がとても悪い人だったら、今頃私はアパートに連れ込まれていたに違いない。
この人は、私に傘を差し掛けてくれて、私のために濡れながら追いかけてきてくれて、バスタオルまで貸してくれて、頭を拭いてくれて……そして、まだ私を気遣ってくれている。
「……あの、ごめん、なさい……」
私は、さっきから今までの、酷い態度を詫びた。
言葉を口にすると大声で泣きそうだと思っていたけど、いま流れ出る涙は、この人の優しさに対する感謝の涙だったと思う。
「うん、謝らなくていいよ。でも、ちゃんと家に帰って着替えないと、風邪ひいちゃうから。泣いたりするのはそれからだよ。わかった?」
まるで、小さい子に諭すようなとても優しい口調。
まぁ、言うことを全く聞かないだだっ子には違いない。
「あの、ちゃんと、帰ります……。傘、お借りします」
私が小さな声でそう言うと、その人は頭にポンと優しく手を乗せて「返さなくていいから。ちゃんと帰るんだよ」と言い残して、私に傘を持たせて……走ってその場を後にした。
泣きたい時に、誰かの優しさって、あまりにも身に染みる。
私は彼の後ろ姿に頭を下げて、心の中で感謝の気持ちを綴った。
──なんて事が、あの日、あったのだ。
全く思い出したくないとても酷い一日の、小さな暖かい瞬間。
私の態度はとても酷すぎたけど。