先生がいてくれるなら②【完】
「光貴先生……あの、この……音声、って、……聞き、ました……?」
必死に絞り出すようにしても、声がうまく出てこない。
そしてその声は掠れて、震えている。
光貴先生がこれを持っていて私を呼び出したと言う事は、音声を聞いていないはずはないだろう。
だけど、どうしても確かめずにはいられなかった。
光貴先生は目を閉じて一度呼吸を整え──そして、ゆっくりと頷いた。
やっぱり……。
俯くと、堪えていた涙が零れ落ちそうになる。
だけど、私が泣くのは、卑怯だ。
私の口から発した言葉が人を酷く傷つけたのに、傷つけた張本人が泣くのは反則だと思う。
だから私はもう一度グッと歯を噛みしめて、涙が零れないように必死に耐えた。
「あの、これの持ち主の人の事は、ほとんど何も知りません……多分、孝哉先生の、元教え子です……」
私がそう言うと光貴先生は一度ゆっくりと瞬きをして「やっぱり」と呟いた。
「光貴先生、これ……どうして……」
「今朝、救急で運び込まれた女性の持ち物でした」
「……救急?」
「詳しい事は警察じゃないと分からないけど、僕たちは原付バイクの単独事故って聞いてます」
そう言えば彼女は、私に初めて会いに来た時もこのボイスレコーダーを取りに来た時も、原付バイクに乗っていた。
「あ、あの、彼女の容態は……」
「……やっぱり気になるよね」
私がコクリと頷くと光貴先生は少し眉根を寄せて「今はまだ意識不明の重体です」と答えた。
意識不明……。