先生がいてくれるなら②【完】
そんなに簡単に無くなって良い命なんて、無い。
私はお兄ちゃんを病気で亡くしてから、そう考えるようになった。
彼女のこと、もちろん憎い気持ちはあるけど、死んでしまえば良いとは思わない。
人から見れば私のこの考え方は偽善っぽいかも知れないけど、私は本気でそう思ってる。
「光貴先生。もし彼女の容態に変化があれば、すぐに教えていただけますか?」
「……分かりました」
光貴先生も複雑な思いなのかな。
はっきりと私の口から答えたわけでは無いけど、きっと光貴先生は彼女と私の関係や、彼女が私にしたこと、私が孝哉先生にしたこと──全てに気付いているだろう。
それでも、目の前の命を救わなければならない。
どんな人間であれ、目の前にある命を救うために全力を尽くす。
それが、医者という職業の責務だから。
私は、名前も知らない彼女のことを光貴先生にお願いして、病院を後にした──。