先生がいてくれるなら②【完】
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屋上ではとても爽やかな風が吹いている。
私の気持ちとは正反対な爽やかさに、私は思わず眉根を寄せた。
滅多に来る事のない特別教室B棟の屋上で、私はフェンスに背中を預けるように立っている。
どうしても一人になりたくて、同じクラスで仲良くなった椿に「英語係の仕事があるから」とウソをついて、屋上に来ていた。
誰もいない屋上で私はひとり、先生にした別れ話の事を思い出していた。
もしいま背中にあるこのフェンスが崩れ去ってこの高さから後ろ向きに落下したら……。
そうしたら、私の魂と共に、私の過去の全ても、消えたりしてくれないかな……。
思わず、そんな風に考えてしまう。
──そんなこと、出来るはずも無いのに……。
私が物思いにふけっていると、屋上のと扉が、キィ、と嫌な音を立てて開いた。
私以外に屋上に来る人がいるなんて。
知ってる人じゃ無ければ良いけど、と思いながら、塔屋から離れるように背を向ける。
「立花さん」
声をかけられてしぶしぶ振り返ると、そこには細川先生が立っていた。
「細川先生……」
「ごめん、邪魔したかな。上がっていく所が見えたから」
私の顔が、明らかに嫌そうな顔だったんだろう。
今の私には表情を繕う余裕なんか無くて、きっと思ったまま顔に出ていたに違いない。
「そうですか……」
細川先生と特に話すことも無いので、私は適当に返事をして、ぼんやりと中庭を見下ろした。
「……あのさ。変なこと、考えてないよな?」
「……変なこと?」
「いや……違うならいいんだ、ごめん、考えすぎた」