先生がいてくれるなら②【完】
学校の正門をくぐり、もうすぐ職員用の玄関──と言う所で、私は口を開いた。
「細川先生、ひとつだけお願いがあります」
それまでほとんど喋らなかった私が急に「お願い」なんて言葉を口にしたので、細川先生は立ち止まって、なぜか少し表情をほころばせた。
「うん、なに?」
「……もう私に構わないで下さい」
私はそれだけを告げて、生徒用の昇降口へと歩き出した。
呆気にとられた細川先生が立ち止まったままこちらを見ているのが分かったが、私は振り返ること無く校舎へと向かった。
昇降口の庇の下へ入って傘を閉じ、軽く傘を振って雨粒を地面へ落とす。
目の端にまだ職員用玄関の手前で突っ立ったままの細川先生が見えていたけど、私は気にせずに下駄箱へと向かった。
上履きに履き替え、部室へと足を向ける。
特別教室棟の廊下から見える中庭が、雨に濡れそぼっている。
この雨空で少し薄暗いそこには、誰が手入れしているのか綺麗な季節の花が植えられていていつも私の目を慰めてくれる。