先生がいてくれるなら②【完】
──なんて、ほんの束の間の癒やしの時間を、背後から聞こえるバタバタと走る足音ですっかり台無しにされた。
どうして。
さっき言ったばかりなのに、もう構ってくれるな、と。
「待って、立花さん!」
放っておいてって言ってるのに。
「そんなに、……俺のこと嫌い?」
その言葉に、私は思わず立ち止まる。
嫌い──?
そうじゃない。ただ、私に構わないで欲しいだけ。
私は首を横に振って、再び歩き出す。
私にはいま本当に余裕が無い。
さっきも、いまも、頭の中はほとんど彼女のことで占められている。
どうすれば良いのか、何をすべきなのか、その事しかもう考えられなくて。
だから、もしいま彼女以外の事で何かがあっても、上手く対処することが出来そうにない。
部室の前まで追いかけてきた細川先生の方に向き直り、私は彼の目をしっかりと見て告げる。
「嫌いとか、そう言うんじゃ無いです。ただ、もうあまり私に関わらないで欲しいだけ」
細川先生は硬い表情のまま私をじっと見つめていたが、なぜか首を横に振り「ごめん、多分無理」と言って、ゆっくりと英語科の準備室の方へと歩いて行った。
無理……?
細川先生がそう言った理由が分からない。
分からないけど、私がいま考えるべき事柄はそれじゃない。
私は部室の掃除をしながら、もう細川先生のことは一度も考える事なく、今後の彼女への対応で頭を悩ませた────