先生がいてくれるなら②【完】
彼女──高峰さんが初めて私の前に姿を現した、あの日……12月26日……。
あの日の、あの後のやり取りを私は思い出す。
あの時──彼女は「あなたが私の言う条件をちゃんとクリア出来たら、考えてあげるわ」と、妖艶に笑いながら言った。
「条件……?」
きっと恐ろしい条件に違いない。
そう身構える私に、彼女はあるものを手に、言い放つ。
「先生が一番言われたくない言葉を言って、別れなさい。それをこのボイスレコーダーに録音するの」
意味が……分からない……。
答えられずにいる私にイライラした彼女は、私にボイスレコーダーを突きつけた。
「仮にも彼女なんだったら、分かってるでしょ? あの人がいま一番言われたくないと思ってる言葉。何でも良いけど、先生があなたが切り出した別れに確実に首を縦に振る、そんな言葉よ」
美しい顔でニッコリと笑う彼女の顔が、私には恐ろしくて堪らない。
「一部始終をこのボイスレコーダーに録音して来て」
──何と言う恐ろしいことを言う人なんだろう。
この人は本当に先生のことが好きなんだろうか?
本当に好きなんだったら、こんな残酷なことは出来ない。
好きな人を傷つけて喜ぶなんて事、私には到底理解が出来そうに無い。
彼女の言葉にまだ答えられずにいると、痺れを切らしたのか、その美しい顔が一変して怒りに変わる。
「聞いてるの!?」
聞こえては、いる……だけど、理解出来ない……。
私は仕方なく、コクリと頷いた。
──頷くしか、無かった。
「期日は今年中よ。大晦日までだから……今日を含めても6日ね。31日の夜にそれを取りに来るわ。その場で確認するから、ちゃんと録音しておかないとどうなるか……」
私は彼女の恐ろしい言葉に、私は再びコクリと頷いた。
「あぁ、そうそう。もうひとつ言っておくわ。──失敗は、許さないから」
そう言い残して、彼女──高峰美雪は、原付バイクで去って行った……。