先生がいてくれるなら②【完】


当然の事ながら、高峰さんにボイスレコーダーを受け取ったその日から、学校に自習に行くことなんて出来なかった。


どうすれば良いか、必死に、無い頭で考えるしかなくて。


だけど、先生と別れると言う選択肢しか無い事に変わりは無くて……。



自習に行けないって事を適当に理由をつけて先生にメッセージで送り、私は考え続けた。




──“先生が一番言われたくない言葉”。




色んな思いや考えが私の頭を駆け巡る。


だけど、どれもこれも役に立たないものばかり……。



そうして辿り着いたのが、タイムリミットの大晦日を翌日に控えたあの日、12月30日──。




先生をカラオケの個室に押し込んで、私は重い口を開いた……。





「先生、私と、別れて下さい」





そうはっきりと、告げる。


ボイスレコーダーにしっかりと録音出来るように。



先生の顔が、私を心配していた表情から、驚きへと変わる。



「立花……、いま、なんて……」



隣の個室からは、私たちの会話にそぐわない、賑やかな曲が漏れ聞こえてくる。


きっとボイスレコーダーにもその曲が録音されているだろう。


滑稽すぎるほどのこの空気の温度差に、彼女はきっと大笑いするに違いない。



「……別れて下さい、って言いました」


「なん、で……」


「だって、先生とでは、普通にデートも出来ないし、放課後デートとかも出来ないから。先生は仕事が忙しそうだし。私、もう我慢するのに疲れました。だから、別れて下さい」



なるべく、普通に、ううん、まるで私が我が儘を言うイヤな女だと思わせるように……。


だから、声が震えたりなんかしたら、アウト。


本気で、そう思ってるように。


私の持てる限りの演技力で…… 。


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