先生がいてくれるなら②【完】

* * * * *

──冬休みが終わり、3学期になった。



モヤモヤする気持ちのまま、俺はいつも通りの時間に学校へ向かう。


職員用玄関から校舎に入り、数学準備室へと足を向ける。


特別教室棟の廊下の突き当たり、そこは数学研究同好会の部室だ。


廊下を歩いている段階で既にその部屋の扉が開放されていることに気付いてはいた。


だが、まさかアイツ──立花がいるなんてこれっぽっちも思わなかったんだ。


何か用事のある数研の男子部員が来ているか、立花から事情を聴いた誰かが代わりに掃除に来ているのだと思っていた。




なのに…………。




廊下に背を向けるようにして長机を丁寧に拭き上げる立花の姿が、そこにはあった──。





一体どう言う神経をしてるんだろう、この女。


俺にあんな台詞を吐いておいて、平気な顔していつも通り掃除に来るなんて。



……コイツだけは違うと俺が思い込んでいただけか。


女なんて所詮はみんな、自分のことだけが大事なんだ。


自分の意に沿わなくなったら、あっさりと男を捨てる。



俺は自分自身の浅はかさに目眩がして、しばらく──と言ってもほんの数秒だが、立花の背中を茫然と眺めていた。



立花が長机を拭き終えそうになって、俺はハッと我に返り、隣の準備室へと、足早にその場を立ち去る。


ガチャガチャと音を立てて鍵を開け、乱暴にドアを開けてバタンと大きな音を立ててそれを閉めた。



陽当たりが良いとは言えない1階のこの部屋は、冬の朝は冷え冷えとしていて少し薄暗い。


俺はそんな部屋の中で、電気も暖房もつけずに、しばらくの間ただぼんやりと立ち尽くした。



自分のことだけが大事だったのは俺の方だったとは、一切気付きもせずに──。



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