先生がいてくれるなら②【完】
* * * * *
3学期が始まってすぐの、ある日の放課後のこと──。
「…………」
前にも同じ事があったな、と、思い出す。
いや、今回のは俺に抗議するのは間違ってるだろ。
それとも、感謝の言葉でも述べに来たのか。
──準備室に突然押し入ってきた男に、俺は思いっきり睨まれていた。
「……話が無いなら、出て行ってもらえるかな」
前回同様、俺がそう告げると、その男──倉林悠斗は、近くのパイプ椅子をガシャンと音を立てながら引き寄せ、ドカッと座り込んだ。
……やっぱり出て行く気は無いらしい。
俺がため息を吐くと、倉林はますます俺を睨みつけ、ようやく口を開く。
「……お前、明莉のこと絶対手放さないって言わなかったか!?」
くそっ、面倒なヤツだな。
知るかよ。俺から別れ話したわけじゃねーし。
「その件に関して俺から言うことは何も無いから。出てって」
俺は倉林の顔も見ず、書類に目を落としたままそう素っ気なく答えた。
本当のことだ。
お前は喜ぶだろうから俺からはあまり言いたくないけど、振られたのは俺の方なんだよ。
「お前の覚悟って、そんなもんだったのかよ!? ほんと、最低だな!」
そう言って、倉林は握りしめた拳を目の前の長机に思い切り振り下ろした。
ドンッッッ! と大きな音が狭い準備室に響き渡る。
横目でチラリと見ると、乗っていた課題のプリントの山が、あまりの衝撃に一瞬ふわりと浮いて、その反動で滑って少し散らばる。
おいおい、備品を壊したらお前に弁償して貰うからな。
あと、そのプリントもちゃんと揃えて置き直せ。
「……うるさい。帰れ」
俺はそう告げて、倉林に目を向けること無く書類をチェックしていく。
無視し続ける俺にイラついた倉林が勢いよく立ち上がったことによって、パイプ椅子がガシャンと大きな音を立てて後ろに倒れた。
……うるさい。