先生がいてくれるなら②【完】
この雰囲気が怖い、落ち着かない、焦り、戸惑い──とても “正” の感情を持つ事が出来ず、“負” の感情に支配されてしまう。
この場から逃げ出したい、そう考えてしまう……。
教授は正面から真っ直ぐに私を見据え、「きみは、普段から彼を下の名前で呼んでいるのか?」と尋ねた。
「いえ……」
引っかかっていたのはそこだったようだ。
「学校では『藤野先生』とお呼びしていますが……こちらには弟さんの光貴先生もいらっしゃるので、そう言う時はどちらか分かるように下の名前で『孝哉先生』、『光貴先生』とお呼びしています」
「……なるほど」
少しの沈黙の後、教授は「孝哉は、きみの入院中に見舞いに来たかね?」と尋ねた。
「いえ、先生は修学旅行の引率中なので……」
私は今更ながら修学旅行に行けなかった事を思い出してしまい、やっぱり行きたかったな、と思ってしまう事を止める事が出来なかった。