竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
 帰ってから3日後のこと。私はいつものように竜の巣を掃除していた。記憶にないが、多分、またアウリスのことを考えてぼーっとしていたんだと思う。外に出してたはずの竜が戻ってきたことにも気付かず、気付いた時には、竜の尾が当たり、左腕に激痛が走った。

「っっっ!」

声も上げられないくらいの痛みが全身を駆け抜ける。私は、辛うじて竜笛を取り出し、咥えた。

「ピッピッピッピッ」

聞こえない笛を小刻みに吹くと、竜は当然のように巣の外に出る。

 私は、竜の尾が届かないことを確認して、巣の外に出た。

「お父さん、お父さん!」

痛みに耐えながら父を呼ぶと、別の洞窟から父が現れた。

「レイナ、どうした?」

のんきに返事をした父だったが、私の様子を見て、顔色を変えた。

「レイナ! どうした!?
 腕か!?」

父が、状態を見ようと、腕に触れた瞬間に激痛が走る。

「んっっっ!!」

息を呑み、声にならない悲鳴を上げる。

「竜か? なんで、そんなヘマを……」

父は、口惜しそうに下唇を噛んだ。

「とりあえず、医者に見せよう。
 山を下りるぞ」

「大丈夫……
 ひとりで行ける」

今、父がここを離れたら、竜の世話が終わらない。

私は、だらんとぶら下がった左腕を庇いつつ、1人で山を下りようとするが、父はそれを許さなかった。

「その手じゃ、竜には乗れないだろ。
 歩いて下りる気か?
 竜で下りればすぐだ」

「でも……」

この手じゃ、縄梯子も上れない。

 父は、私の言葉は聞く気がないようで、すぐにそばにいたイーロに鞍を掛ける。そして、私の痛む腕の内側にそっとロープを通すと、背中を通って反対の脇にも通した。そのままロープを肩に担いでしゃがむと、ロープの端を足の付け根に回して、簡単に私を背負い上げてしまった。そうしてそのまま父は、イーロの背に上る。私は、揺れてどこかに触れるたびに痛むその手を、必死に庇いつつ、漏れそうになる呻き声を歯を食いしばって、喉の奥に押し留める。
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