竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
 翌日、私の熱はすっかり下がった。私は当然のように仕事に行く準備をしていると、父が言った。

「レイナは当分仕事はしなくていい」

えっ!?

「なんで?
 いつも通りにはできないかもしれないけど、片手でも出来ることはあるよ?」

掃除も餌やりも、いつもよりは時間が掛かるかもしれないけど、出来る。竜には乗れないから、訓練は無理かもしれないけど。

「いや、いらない。
 キーラがいなくなってから、お前は気が抜けてる。気の抜けた竜使いはいらない」

父の厳しい言葉が、胸に突き刺さった。

確かに、キーラのせいではないけど、このところの私は、気が抜けてた。

アウリスのことが頭から離れなくて、作業中もぼぉーっとして漫然と仕事をしてたと思う。

 私は、言い返すことも出来なくて、ただ下唇を噛んで俯くばかりだった。

「じゃ、行ってくる」

パタンとドアが閉まる音を、私は聞くともなく聞く。



「……よしっ!」

私は、自らを鼓舞(こぶ)するようにあえて声に出して、顔を上げた。

気持ちを切り替えて、私は私に出来ることをしよう!


 窓を大きく開けて、はたきを掛け、ほうきで掃き、雑巾を掛ける。

 部屋が綺麗になるにつれて、心もすっきりとしていく。


忘れなきゃいけないって思ってた。

でも、そう思えば思うほど、忘れられなくて苦しかった。

だって、5歳の時からずっと思ってたんだもん。

私はいつ気付いたんだろう。
王子様と結婚できるのはお姫様だけだって。
竜使いじゃダメなんだって。

それでも、あの日、優しかったアウリスを忘れることはできなかった。

カサカサに乾いた指輪はもう、はめられないって分かってても。


だったら、忘れるのはやめよう。

アウリスとの結婚を諦めたからって、アウリスを忘れなきゃいけないわけじゃないよね?

ひっそりと心の中で思うのは、迷惑じゃないよね?


これまでと同じ。

指輪を大切に、思い出と共に心の中で思い続ける。



明日からは、ちゃんと仕事しよう!

もう、お父さんに迷惑も心配も掛けない。

ちゃんと頑張ろう。


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