竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
 その翌日、私は今日こそは仕事に出かけようと支度をしていると、玄関のドアがタンタンタンと取り付けられたドアノッカーでノックされた。

「誰かしら? こんな時刻に。
 マリッカおばさん?」

呟く私をよそに、父が玄関を開けた。

「おはようございます」

落ち着いた低い声とともに姿を見せたのは、2歳年上のオルヴォだった。

「おはよう。どうした?」

父が尋ねる。

「レイナがけがをしたって聞いて。
 レイナ、大丈夫?」

戸口からオルヴォが覗き込んで私を見る。

「大丈夫よ。しばらくは不便だけど、何もしなければ痛みもないし」

私が答えると、オルヴォは安心したように、ほっと息をつく。

「それなら、良かった。
 さっき、そこでマリッカおばさんに聞いて、いても立ってもいられなくて、飛んできたんだ」

オルヴォはいつもの柔らかい笑顔を見せた。

「エルノおじさん、今日、俺で良ければ、仕事を手伝わせてもらえませんか?」

オルヴォは父に向き直って言った。

「ヤーコブの農園も今は忙しいだろ」

ヤーコブさんは、オルヴォたちのお父さん。広い農園で、麦やら野菜やら、たくさん育てている。

エドヴァルドの夏は短い。今は畑も大変なはずよね?

「うちは、ペルッティもソニヤもいますから、大丈夫です」

ソニヤはオルヴォたちの妹。私の2つ年下。子供の頃は毎日のように遊んだ。ヤーコブさんの畑は、おじいさん、おばあさん、ヤーコブさん夫妻、子供たち3人の合計7人でようやくなんとかなるくらい広い。

「じゃあ、本当にヤーコブがそれで大丈夫だ
 って言うなら、頼むよ」

「はい!
 じゃあ、一応、父に報告してきます。
 レイナ、また後で」

オルヴォはそう言うと、父にペコリと頭を下げて、駆け出していった。

 オルヴォは昔から、優しい。麓の町の学校へ通う時も、オルヴォはいつもうちまで山を登って小さな私を迎えに来てくれた。オルヴォにとって、私はきっと今もあの頃のままの世話の焼ける小さな女の子なのかもしれない。
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