竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
 王子として育って来たアウリスが、返事の仕方から直されて、きつい仕事を日々こなせるのだろうか。

でも、それができないと、竜使いにはなれない。

「それから!」

父がちらりと私に視線を向けた。

「見習いの間は、レイナとの結婚は認められません。1年間は、レイナには手を触れないでいただきたい」

その瞬間、アウリスは、思案するように固まった。しかし、すぐにその表情を和らげて答える。

「竜使いとして認められるまで、レイナはやれないということだな?
 逆に言えば、竜使いとして認められれば、レイナとの結婚も認めてくれると思っていいんだな?」

アウリスがそう言うと、父は、ため息を吐いた。

「アウリス、まず、その言葉遣いから直しなさい。お前は、すでに王子ではなく、竜使いの見習いなんだろ。私にも、レイナにも敬語で話すんだ。
 それができないと、竜を売りに行った先でトラブルになる。もし、言葉遣いを直せないなら、諦めて国王になった方がアウリスのためだぞ」

そう言われて、アウリスは一瞬、ハッとしたように目を見開き、頭を下げた。

「申し訳ありません。
 以後、気を付けますので、ご指導をよろしくお願い致します」

アウリスにしてみれば、普段、使い慣れない言葉。

どれくらいで直るものなのかな。



 その夜、いつも通り、オルヴォがやって来た。アウリスを初めて見たオルヴォは、即座にアウリスに(いぶか)しげな視線を向けた。

「レイナ、この人は?」

「オルヴォ、この人は……」

紹介しようとした私を、アウリスがそっと手で制した。

「初めまして。今日から、竜使いの見習いとして働くことになったアウリスと申します。どうぞよろしくお願い致します」

アウリスは、さっきまでの王子様然とした話し方はどこへやら、とても丁寧な言葉遣いで自己紹介をする。

「見習い!? なんで?
 働き手がいるなら、俺が!」

オルヴォは、納得がいかない顔で訴える。その時、部屋の奥にいた父が、オルヴォに言った。

「オルヴォ、いつも気にかけてくれて、助かるよ。だが、このアウリスは、大事な取引先の子息で、断るわけにいかなくてな。
 ここで1年、見習いとして過ごすから、よろしく頼むよ」

オルヴォは、不満そうではあるものの、それ以上の不満を口にすることはなかった。


 
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