竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
 私が家に入ると、オルヴォはいつものように、野菜籠を抱えて一緒に台所へ向かう。その後から、アウリスが続く。

 オルヴォが、籠から野菜を出し、自分で洗い始めると、私は、アウリスとオルヴォの間に挟まれ、気が気じゃない。

「今日はさっき引いてきたばかりのビーツを持ってきたから、シチューにしようか」

オルヴォは、そんな私にお構いなしに話し掛ける。

「う、うん」

私は、アウリスが気になりながらも、手渡されたビーツやいろいろな野菜を刻んでいく。

「レイナ、彼はいつもここで料理をしてるのかい?」

後ろから、アウリスが尋ねる。

「うん。夏にね、私が腕を骨折した時に手伝いに来てくれてね、それから、いつも来てくれてるの」

お願い、アウリス、誤解しないで。


 アウリスが、竜使いの見習いになると決まった今でも、私はアウリスと結婚できるとは思えないでいる。だって、1年もアウリスが厳しい竜使いの生活に耐えられるわけがない。朝から晩まで、辛い肉体労働の数々が待ってる。王子様として育った彼が、それに耐えられるとは、到底思えない。

 それでも、オルヴォとの関係を誤解しないで欲しいと思ってしまう。私が好きなのは、アウリスだけだと信じてて欲しい。


「レイナ、骨折してたのか?」

アウリスは驚いた声を上げた。

「う、うん。でも、大したことないの。
 今は、もうすっかり元通りだしね」

あの時は、アウリスのことばかり考えて、ぼーっとしてたんだったよね。あれからもう、5ヶ月も経つんだ。

「ごめん、そばにいてやれなくて」

アウリスが私の手を握る。

「ううん」

と私が口を開いた途端、オルヴォがアウリスの手を振り払った。

「ただの見習いが、何親しげに触ってんだよ」

「オルヴォ!
 ごめん、アウリス。
 オルヴォも悪気はないと思うんだけど」

何て言っていいのか分からなくて、私は、2人を交互に見やることしかできない。

すると、父の低い声が響く。

「オルヴォ!
 けんかするなら、明日から来るな。
 それから、アウリス!
 レイナには手を触れるなと言ったはずだ」

2人は、父に叱られて、気まずそうに黙った。

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